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エレガントでパンキッシュ、反骨心に溢れていたドリス ヴァン ノッテン20-21AW
FASHIONSNAP.COM
2020年1月

今のヨーロッパのリアルファーに対する嫌悪感は、想像を超えるものがある。もちろん、ミラノのモンテナポリオーネ通りやパリのフォーブルサントノーレ通りなどの富裕層が集まる通りでは、ときおり毛皮を羽織ったマダムを見かける。でも、街中やメトロでは皆無に等しい。その一方で、今シーズンはムートンジャケット、コートがトレンドに浮上しており、食肉副産物のレザーと毛皮を取るための毛皮の区別がこれまで以上に明確になってきた気がする。
だからこそ、ドリスのファーストルックを見た時、腰が抜けそうになった。狐の頭と尻尾が残ったフォックスファーを無造作に首に巻いていたからだ。2ルック目のロシアンハット、3ルック目のGジャンの襟も、ともに毛足の長いファー。あまりにもリアルに見えるから本物だと錯覚したけれど、じつはこれらは全てフェイクファー。ファッションとしての毛皮を極端に毛嫌いする風潮に対するアンチテーゼを感じずにはいられなかった。
今シーズンの着想源は、ニューヨーク・ドールズやストゥージズ、ラモーンズなどの1980年代初めの前衛的なパンク。だから、いつものドリスの品のある世界観と、どこか妖艶でパンキッシュな要素が融合している。
クラシックなガンクラブチェックの英国風のジャケットは、ウエストをベルトでギュッと絞って、紫のラメのパンツとプラットフォームブーツを合わせる。まるで、お父さんのクローゼットからジャケットを拝借してクラブに遊びに行く若者みたいだ。アニマルプリントのノースリーブシャツに、虎が大きく描かれたゴールドのパンツのルックは、グラムロック全盛期の雰囲気。
グレーのオーセンティックなスーツは、ボタンの代わりにラインストーンのブローチで留めて、袖には肘まであるニットグローブを重ねる。ゆったりしたサイズ感のライダースジャケットには、アロハプリントのショートパンツとプラットフォームブーツを合わせる。季節感もサイズ感も素材感もてんでばらばらなのに、不思議と調和して見えるのは流石としか言いようがない。
全シーズンに引き続き、アーティストとのコラボレーションも継続。スイスのアーティスト、ウルス・リュティ、同じくスイスの写真家、カールハインツ・ワインバーガーの作品を、服に落とし込んでいる。
プレスリリースには、今回のコレクションに込めた思いが書かれていた。人間という生き物はとかくルールや常識に縛られがちだけど、そうした足枷を外せばファッションはもっと楽しくなる。そんなドリスのメッセージを感じたコレクションだった。
増田海治郎雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。
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